第4章『車いすの取り扱い方と乗車、降車』

1.車いすの種類、構造名称、乗車判断 

(1)車いすの種類
  • 車いすは、手動式(自走式、介助式)と電動式に分類されます。
  • 身体状況や目的に合わせ、さまざまなタイプ、大きさの車いすがあります。
  • 手動、電動にかかわらず、道路交通法では歩行者の扱いです。

① 自走型

  • 後輪のハンドリムを操作したり、フットサポートを上げて足を使って自走する
  • 介助用のブレーキがついた車いすを自走介助型と分類する場合がある
  • 区分:手動
  • 重量:約11kg~14kg

② 介助型

  • 後輪を小型化しハンドリムをなくすことで、省スペースで使用できる
  • 折りたたんだときに小さくなる
  • 区分:手動
  • 重量:約11kg~14kg

③ モジュール型

  • 身体状況などに合わせ、各部の高さ・位置・形状・機能などを調整できる
  • 区分:手動(電動もある)
  • 重量:約11kg~14kg

④ 簡易電動型

  • 手動式車いすにモーター・電源ユニットを取り付けて電動化している
  • 電動走行する以外は、手動式と同じように取り扱える
  • 介助(アシスト)型もある
  • 区分:電動
  • 重量:約25kg~35kg

⑤ 電動型

  • 電動モーターで自走する
  • 原則折りたたみできない
  • 区分:電動
  • 重量:約80kg~100kg

⑥ リクライニング型

  • 背もたれ(及びフットサポート)の角度調整ができる
  • 折りたたみできない、あるいは制約があり、コンパクトにならない
  • 区分:手動(電動もある)
  • 重量:約20kg~35kg

⑦ ティルト型

  • 座面の角度を調整して座位がとりにくい方を使用する
  • 折りたたみできない、あるいは制約があり、コンパクトにならない
  • 区分:手動(電動もある)
  • 重量:約20kg~35kg

⑧ ハンドル型電動(シニアカー)

  • 3輪または4輪の電動カート
  • 日本工業規格(JIS)で、他の電動車いすと同じ扱い
  • 固定ベルトをかける個所がない場合が多い
  • 区分:電動
  • 重量:約100kg

⑨ 子ども用(バギー型)

  • 外観がベビーカーと似ている
  • 子ども用車いすマークを表示している場合がある
  • 区分:手動
  • 重量:約10kg~14kg
※①自走型、②介助型、③モジュール型、④簡易電動型、⑨子ども用(バギー型)は、原則として折りたたんでセダン型のトランクに収納できます。

※スチール・アルミ・チタン・竹など素材の違い、競技用など用途の違い、足こぎペダルのついたものなど、使う人の目的や状態に合わせたさまざまな車いすがあります。
(2)車いす各部の名称



(3)乗車の判断
  • UDタクシーで、車いすのまま乗車するか、移乗する(座席に移る)かは、お客様の希望により決めます。
  • 電動車いすを含め、車いすの大きさや構造により、車いすのままの乗車やラゲージ(トランク)へ収納できない場合もありますが、先入観や見た目で判断するのではなく、お客様にも確認していただきます。
    ※乗車できない理由を丁寧に説明し、別の方法を探すなど含めて対応します。乗務員の判断のみで乗車をお断りすると「乗車拒否」に当たります。
  • 体力の問題などで、どうしてもスロープを押し上げたり、車いすを持ち上げて収納できない場合は、お客様と話し合って対応を決めます。
MEMO

合理的配慮とは

 障がい者差別解消法では「合理的配慮の提供」が求められ、何らかの支援を必要としている意思が示されたときは、負担が重すぎない範囲で工夫して対応します。工夫するとは、別のやり方を提案することを含め、話し合い、理解を得るよう努めることです。
 停車禁止場所や他の交通を著しく阻害する場所で乗車申し込みを受けたときに、安全な場所に移動して乗車するように提案することなどもこれに該当します。

2.車いす利用の方の乗車と降車

(1)車いすのまま乗車する手順(UDタクシー)
  • スロープから乗車して、車内では車いすが動かないように固定します。
  • 同乗者の有無にかかわらず、乗務員が車いす利用の方の乗降を介助します。
  • スロープの取り扱いや車いす固定の方法は、車種ごとに異なり、車両取扱説明書や説明動画で確認するだけでは実際の乗降介助ができない、危険、あるいは車いすを破損してしまう場合があります。
  • UDタクシーに乗務するときは、車種ごとに「事前に、車いす乗車とシートベルト装着の実技練習」が必須です。
乗車前
  1. 安全に乗降できる場所に停車します。
  2. お客様に、乗車準備を始めることを伝えます。(おおよその作業時間を伝えると安心です)
  3. シートを収納して、スロープを準備します。

後部シートを倒してスロープの準備をしています
乗車時
  1. スロープから乗車して、所定の位置で車いすのブレーキをかけます。
  2. 固定ベルトをセットして、車いすが確実に固定されたことを確認します。
  3. シートベルトを装着します。
降車時
  1. スロープから降車した後は、歩道上など平坦で安全な場所まで車いすを押して移動してから見送ります。
MEMO

ドアを開けるタイミングにも心配り

 大型の車いすでも、フットサポート(レッグパイプ)を取り外したり、後方に回転してたたむ機能を使うと全長が短くなり、車いすのまま乗車できる可能性があります。見た目で判断するのではなく、お客様と相談しながら乗車方法を検討することが大切です。

(2)座席に乗り移る乗車手順
  • セダン型だけでなく、UDタクシーでも、座席に乗り移って乗車する方法があります。
  • 乗車位置は、助手席を含め、お客様と相談します。
  • ドアサービスでは、手すり(グリップ)の位置を案内する、ドアが動かないように押さえる、頭を屋根にぶつけないように声をかけるなど、乗車しやすいよう配慮します。
  • 車いすの収納場所を、お客様と相談して決めます。
乗車前
  1. 「何かお手伝いできることはありますか?」と、声をかけます。
乗車時
  1. 同乗者(家族・ガイドヘルパーなど)の有無により、対応が異なります。
    ≪同乗者がいる場合≫
    原則として、お客様自身と同乗者の介助で乗車するので、乗務員は見守ります。
    ※同乗者が乗降を介助できない場合は、乗務員がお手伝いします。
    ≪同乗者がおらず一人で乗車する場合≫
    お手伝いを必要としない場合は、お客様自身で乗車して、乗務員は見守ります。
    ※お手伝いの要望があるときは、お手伝いの仕方をお客様に確認して実施します。
  2. シートベルトの装着を確認し、車いすを収納します。
お手伝いのポイント
  • お手伝いする個所と方法は、お客様に確認します。お客様が望まないお手伝いは、必要ありません。
  • お手伝いを始める前に、声をかけて了承を得てから行います。
  • 車いすを折りたたんで積み込む作業は、乗務員が行います。

3.ボディメカニクス

 ボディメカニクスとは、体の動きや力学などの知識を活用した技術のことで、上手に使えば、力任せにしなくても車いすを持ち上げられます。

(1)車いすを持ち上げるときに有効なボディメカニクス


両足を開いて基底面を広くする
 足を前後左右に開くことで、身体が安定します。

車いすと自分の重心を近づける
 重い物を持つときは、身体に近づけないと余計に重く感じます。反対に自分に近づけて持つことで、不思議と軽く持ち上げられます。

できるだけ大きな筋肉を使う
 腕の筋肉で持ち上げようとしないで、太ももの前側の大きな筋肉(大腿四頭筋)を使うようにします。

自分の重心を上下に移動する
 背筋を伸ばし、膝の屈伸を使って自分の重心移動をすることで持ち上げます。

(2)車いすを持ち上げるには
  1. 足を開いて膝を曲げてしゃがみ、
  2. 車いすを抱きかかえるように深く持って、
  3. 前かがみにならないように、背筋を伸ばした姿勢を保ちながら立ち上がります。
MEMO

 車いすの大きさや構造などで、スロープや車載の固定ベルトの設備がどうしても対応できない場合は、乗車を遠慮していただくことがあります。
 その際は、他の手段を提案したり、理由を説明して、理解を得るよう努めることが大切です。

4.車いすの取り扱い

 お客様の大切な車いすです。丁寧に取り扱いましょう。

(1)車いすを押すときは


車いすの構造や状態を確認します
 タイヤの空気が足りないと、ブレーキが効きません。

車いすに正しく座っていることを確認し乗せていますか?
 車いすのタイヤに、手や衣類が巻き込まれていないか確認します。

車いすを動かす前に声をかけます
 いきなりではなく、事前に声をかけて了承を得てから、ゆっくりと動かします。

(2)段差や溝を超えるときは
  • 段差越えで車いすの前輪(キャスター)を上げる際は、ティッピングバーに足を乗せ、体重をかけると上がりやすくなります。
  • 車いすが後ろに傾くので、動作の前に声をかけます。
  • 段差を降りる際は、後ろ向きに進みます。
(3)車いすをラゲージ(トランク)に入れるときは
  • 腰への負担を減らすため、両足を開いて腰を落とし、足の屈伸を利用して持ち上げます。
  • 簡易電動型は重くて持ち上げられないときは、バッテリーやフットサポート・アームレストが取り外し可能であれば、お客様に確認して一時的に取り外す方法があります。

(4)車いすの操作・介助の留意点

 自動車の運転と同じで、車いすは丁寧に操作すると、乗り心地が良く、車いす利用のお客様と信頼関係を築くことができます。

座席に移乗する場合
  • 移乗時は車いすのブレーキをかけ、グリップを持って支えます。(車いすが動くと、転倒や転落の危険があります)


  • 車いすに乗り降りするときは、フットサポートを跳ね上げておきます。(フットサポートに立つと、転倒します)


  • つかまる個所を確保します。(助手席を後ろに移動するなどします)


  • ドアが動かないように支えます。(ドアにつかまったときに、閉まらないようにします)


    スロープの昇り降りや段差を超える場合
    • 前輪(キャスター)が上げられない。(転倒防止バーで抑制されている場合、お客様に確認してたたみます)


    • フットサポートが、スロープに衝突してしまう。(段差を超えるときのように、前輪を持ちあげて上り始めます)